郷に回りて偶書す 賀知章
少少家を離れて.老大にして回る 郷音改まるなく鬢毛摧く
児童相見て 相識らず 笑って問う 客は何れの処より来るかと
若い頃に家を離れて、年老いて故郷に帰ってきた。お国なまりは、昔とちっとも変わらないが、私の髪は白く薄くなってしまった。子供たちは私を見ても、誰だかわからないようで、にこにこしながら、「お客さんは、どこから来たの?」とたずねるのだった。
賀 知章(初唐、659~744)盛唐の詩人、書家。会稽(浙江省)の人36歳で進士に及第、諸官を経て最後に秘書監となる。晩年は放縦な生活をおくり、四明酔客と号し町を遊び歩き、酒に酔っては人に書を書いてやったという。官を捨てて故郷に帰り、道士となり間もなく死亡。詩は19首残っている。
詩人「杜甫」は飲中八仙歌という詩に、八人の酒のみを紹介しているが、まず一番先に次のように詠んでいる。
『知章が 馬に騎るは 船に乗るに似たり 眼花 井に落ち 水底に眠る』
賀知章が酒に酔って馬に載る姿は、まるで舟に揺られているようである。酔眼はもうろうとしていて、路傍の井戸に落ちてもそのまま気付かずに眠ってしまう程である。